■ 営業日、時間の予定 ■
◉ 5月16日(月)15:00〜20:00
◎ 5月17日(火)14:00〜20:00
◉ 5月18日(水)14:00〜20:00
◎ 5月19日(木)14:00〜20:00
◉ 5月20日(金)14:00〜17:30
◎ 5月21日(土)16:00〜20:00
◉ 5月22日(日)12:30〜20:00
◎ 5月23日(月)15:00〜20:00
◉ 5月24日(火)14:00〜20:00
◎ 5月25日(水)13:00〜17:00
◉ 5月26日(木)14:00〜20:00
※5月27日(金)お休み
◎ 5月28日(土)12:30〜20:00
◉ 5月29日(日)12:30〜19:30
◉ 5月16日(月)15:00〜20:00
◎ 5月17日(火)14:00〜20:00
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※5月27日(金)お休み
◎ 5月28日(土)12:30〜20:00
◉ 5月29日(日)12:30〜19:30
◉ 5月29日(日)12:30〜19:30
【 しんじく なるしす 】
とても気に入って足しげく通うようなお店でも、
特別何かきっかけがあるわけでもなく、
強いて言うならば、生活環境がさまざまに変わっていき、 だんだんと遠のいてしまうことがある。
実際、お店をやっていて、
とても良く来てくれていた方がとんと来なくなってしまって寂しくなったり、
そうかと思えば、おすすめの本はないか、と久しぶりに顔を出してくれ、とても嬉しくなったり、
ということがある。
不思議なものだ。
……
その界隈にはしょっちゅう足を運ぶのに、
なぜかそのドアを引くこともなく、
それでも、通りすがりに必ず見上げてはまだあるのを確認し、安心しているお店がある。
そこは、Yゼミで同じクラスになったMくんに連れてこられた場所だ。
MくんはYさんのバイト仲間で、あるとき突然に、
あんた、Yさんの知り合いでしょ?こんなとこいないでどっか行こうよ。
と声をかけられ、それ以来、朝、彼に見つかっては引っぱりだされ、入り浸っていた。
週の半分以上、さらに1日の半分はそこにいたんじゃないだろうか(のちに予備校にほとんど行っていないことがばれて、母にとがめられることになる)。
スピーカーの下だとさ、音がズンズン心臓に響く感じがして良いんだよね。
と、わけのわからない理由でカウンターの一番奥、スピーカーの真下が彼のお気に入りの席だった。
そんな場所だったから、話もしやすかった。
そう、そこは話をしても良いお店だった。
こんな若い子がこんなお店に来て、お金もないんでしょう?
と、お小遣いをくれることもあった。
当時、珈琲1杯500円なのに、500円玉がぱちんと置かれ、
Mくんは悪びれることなく受け取っていたけれど(つまりは珈琲1杯サービスということになる)、
そんな馬鹿なことあるか!と、わたしは受け取ったことがなかった。
やがてMくんはYゼミに来なくなった。
わたしはMくんと会わなくなってからも、時々お店に行った。
ひとりで行くようになってからはスピーカーから音が良くきこえるテーブル席に座った。
Mくんとはお互い連絡先も知らないし、ばったり会うこともなく、それきりだ。
だいたい、彼がわたしの名前を知っていたのかどうかさえあやふやだ。
そうしていつからだろう、お店から少しずつ足が遠のいて、通りすがりに見上げるだけになっていった。
………
先日のこと。
ふと空いた時間にまぶしい太陽がその場所を思い出させ、わたしはそこに向かっていた。
実はここ数年、何度か行っていたけれど、タイミングが悪くいつもしまっていたのだった。
かつてMくんとのいつもの席、スピーカーの下にいくと、
おかあさんは、あら、スピーカーの真下だけど良いの?
と聞いてくれた。
はい。とこたえ、座ると、ここだ。この感じ。
お店全体が見えるカウンターの一番奥からふたつめの席。
一瞬のタイムトリップ。
久しぶりすぎて、おかあさんはわたしのことを覚えていなかった。
それでも思い出そうとしてくれて、
わたしの顔をじっと見据えたけれど、
だめだわ。その顔から昔のあなたを思い描いてみたけれど、やっぱり思い出せない。
こないだもね、似たようなことがあってどうしても思い出せなくって。
と、笑うおかあさん(だいたいこういうところの女性店主をママと呼ぶけれど、Mくんがおかあさん、と言っていたのでわたしの中ではおかあさんだ)。
それから、いろんな話をした。
会話禁止のお店が多い中、話をしても大丈夫だったこと、
当時は昼間からずっと満席だったけれど、今はそうもいかないこと……
その時ちょうどジェリー・マリガンが思ったよりも小さい音量でかかっていて、
かつてのヘビーな印象よりも、、ライトというか優しい雰囲気だった。
だけれどおかあさんは細かくアンプのつまみをまわしてたびたび音を調節していた。
CDがどうしてもダメでねぇ。
CDはね、音を大きくしたらただ大きくなるだけなのよ。
ところがレコードは大きくしたら、それぞれの楽器の音が立ってきたりしてね、全然違うのよ。あれはわたしはだめね…。
そして、
何か聴きたいのない?
と聞いてくれた。
かつてお店でけたたましくかかっていたような
ゴリゴリのベースでヨーロッパ系のフリーをお願いすると、
数枚引き出して、その中から選んでくれたのはバール・フィリップス。
そうして音量をあげてくれ、
さらにまた細かく調節をして、
うん、と満足げに少しうなずいてわたしの座っているところに戻ってきた。
それから、音楽の話だけではなく田村隆一や辻まことの話におよび、
かつて彼らが足しげく通って来ていたこと、
飾ってある田村隆一直筆の色紙は鎌倉から風呂敷に包んで持って来たこと、、、
当時しなかったような話をして、うなずきあった。
もっとも、かつてのわたしは内気ちゃんすぎて、ほとんど話らしい話もせず、何を考えているかわからない、と言われるような石のような存在だったので今だからそんな会話ができたのだとも思う。
そして、エリック・ドルフィーが描かれたマッチをまだたいせつに持っていると告げると、
その後に作ったという、むかしむかしに辻まことがお店のために描いた絵のマッチを渡してくれた。
あの頃、いつも熱くてなかなか飲めなかったカフェオレは
そこまで熱すぎず、猫舌のわたしが少しずつほどよく飲める温度だった。
また必ず行こう。
【 しんじく なるしす 】
とても気に入って足しげく通うようなお店でも、
特別何かきっかけがあるわけでもなく、
強いて言うならば、生活環境がさまざまに変わっていき、 だんだんと遠のいてしまうことがある。
実際、お店をやっていて、
とても良く来てくれていた方がとんと来なくなってしまって寂しくなったり、
そうかと思えば、おすすめの本はないか、と久しぶりに顔を出してくれ、とても嬉しくなったり、
ということがある。
不思議なものだ。
……
その界隈にはしょっちゅう足を運ぶのに、
なぜかそのドアを引くこともなく、
それでも、通りすがりに必ず見上げてはまだあるのを確認し、安心しているお店がある。
そこは、Yゼミで同じクラスになったMくんに連れてこられた場所だ。
MくんはYさんのバイト仲間で、あるとき突然に、
あんた、Yさんの知り合いでしょ?こんなとこいないでどっか行こうよ。
あんた、Yさんの知り合いでしょ?こんなとこいないでどっか行こうよ。
と声をかけられ、それ以来、朝、彼に見つかっては引っぱりだされ、入り浸っていた。
週の半分以上、さらに1日の半分はそこにいたんじゃないだろうか(のちに予備校にほとんど行っていないことがばれて、母にとがめられることになる)。
スピーカーの下だとさ、音がズンズン心臓に響く感じがして良いんだよね。
と、わけのわからない理由でカウンターの一番奥、スピーカーの真下が彼のお気に入りの席だった。
そんな場所だったから、話もしやすかった。
そう、そこは話をしても良いお店だった。
こんな若い子がこんなお店に来て、お金もないんでしょう?
と、お小遣いをくれることもあった。
当時、珈琲1杯500円なのに、500円玉がぱちんと置かれ、
Mくんは悪びれることなく受け取っていたけれど(つまりは珈琲1杯サービスということになる)、
そんな馬鹿なことあるか!と、わたしは受け取ったことがなかった。
やがてMくんはYゼミに来なくなった。
わたしはMくんと会わなくなってからも、時々お店に行った。
ひとりで行くようになってからはスピーカーから音が良くきこえるテーブル席に座った。
Mくんとはお互い連絡先も知らないし、ばったり会うこともなく、それきりだ。
だいたい、彼がわたしの名前を知っていたのかどうかさえあやふやだ。
そうしていつからだろう、お店から少しずつ足が遠のいて、通りすがりに見上げるだけになっていった。
………
先日のこと。
ふと空いた時間にまぶしい太陽がその場所を思い出させ、わたしはそこに向かっていた。
実はここ数年、何度か行っていたけれど、タイミングが悪くいつもしまっていたのだった。
かつてMくんとのいつもの席、スピーカーの下にいくと、
おかあさんは、あら、スピーカーの真下だけど良いの?
と聞いてくれた。
はい。とこたえ、座ると、ここだ。この感じ。
お店全体が見えるカウンターの一番奥からふたつめの席。
一瞬のタイムトリップ。
久しぶりすぎて、おかあさんはわたしのことを覚えていなかった。
それでも思い出そうとしてくれて、
わたしの顔をじっと見据えたけれど、
だめだわ。その顔から昔のあなたを思い描いてみたけれど、やっぱり思い出せない。
こないだもね、似たようなことがあってどうしても思い出せなくって。
と、笑うおかあさん(だいたいこういうところの女性店主をママと呼ぶけれど、Mくんがおかあさん、と言っていたのでわたしの中ではおかあさんだ)。
それから、いろんな話をした。
会話禁止のお店が多い中、話をしても大丈夫だったこと、
当時は昼間からずっと満席だったけれど、今はそうもいかないこと……
その時ちょうどジェリー・マリガンが思ったよりも小さい音量でかかっていて、
かつてのヘビーな印象よりも、、ライトというか優しい雰囲気だった。
だけれどおかあさんは細かくアンプのつまみをまわしてたびたび音を調節していた。
CDがどうしてもダメでねぇ。
CDはね、音を大きくしたらただ大きくなるだけなのよ。
ところがレコードは大きくしたら、それぞれの楽器の音が立ってきたりしてね、全然違うのよ。あれはわたしはだめね…。
そして、
何か聴きたいのない?
と聞いてくれた。
かつてお店でけたたましくかかっていたような
ゴリゴリのベースでヨーロッパ系のフリーをお願いすると、
数枚引き出して、その中から選んでくれたのはバール・フィリップス。
そうして音量をあげてくれ、
さらにまた細かく調節をして、
うん、と満足げに少しうなずいてわたしの座っているところに戻ってきた。
それから、音楽の話だけではなく田村隆一や辻まことの話におよび、
かつて彼らが足しげく通って来ていたこと、
飾ってある田村隆一直筆の色紙は鎌倉から風呂敷に包んで持って来たこと、、、
当時しなかったような話をして、うなずきあった。
もっとも、かつてのわたしは内気ちゃんすぎて、ほとんど話らしい話もせず、何を考えているかわからない、と言われるような石のような存在だったので今だからそんな会話ができたのだとも思う。
そして、エリック・ドルフィーが描かれたマッチをまだたいせつに持っていると告げると、
その後に作ったという、むかしむかしに辻まことがお店のために描いた絵のマッチを渡してくれた。
あの頃、いつも熱くてなかなか飲めなかったカフェオレは
そこまで熱すぎず、猫舌のわたしが少しずつほどよく飲める温度だった。
また必ず行こう。